第37章 彼は彼女のために密かに道を敷く

藤原修一は仕方なく車に乗り込んだ。運転手まで笑いを抑えられない様子だった。

「藤原社長、こんな遅くに帰らないと、奥様が心配されますよ」

「余計なお世話だ」藤原修一は低い声で言った。「帰ろう」

運転手は車を発進させ、水沐天城マンションへと向かった。

道中、運転手も妻から電話を受け、いつ帰るのかと尋ねられていた。

藤原修一は電話越しに女性の声が聞こえ、夕食を取っておいたことや、子供たちの勉強のことなどを心配そうに話しているのが聞こえた。

「わかったよ、うるさいなぁ、切るよ」と運転手は妻に言った。

口では文句を言いながらも、運転手の心は甘く、顔には幸せな笑みを浮かべていた。

藤原修...

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